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ボイスプロステーシス(Provox)使用者に対する
発声リハビリテーションに関する実態調査

背景

 喉頭摘出術による音声コミュニケーションの喪失はQOLを著しく低下させる。

 このQOL低下を抑えるための手段であるボイスプロステーシス(以下、Provox)は約90%の患者が簡便に発声を再獲得できること(Op de Coul 2000)、手術が簡便であり、外来において交換できることで知られている。

 一方で、発声は可能となっても日常会話では困難を訴える患者も多く存在するため、発声リハビリテーション(以下、リハビリ)が必要と考えるが、医療機関においてリハビリを受けられず喉頭摘出者団体に参加し初めて発声に関する指導を受ける患者も多く存在する。

医療機関において気道食道シャント使用者(Provox)に対するリハビリが提供されているか、併せてどのようなリハビリが求められているか調査する必要がある。

目的

 喉頭摘出者団体(悠声会)協力の下、Provox使用者に対して、発声リハビリに関するアンケートを行い、発声リハビリの実態について検討する。

方法

 発声リハビリに関するアンケート用紙を作成し喉頭摘出団体の会員に郵送した。

発声リハビリに関するアンケートの項目

基本情報:患者の年齢・性別、術式、provox留置の時期
病院でのリハビリの履歴
発声リハビリの必要性の有無
必要と考えるリハビリの内容(次ページ参照)
発声に関する日常生活上の状態
病院でのリハビリの有無によるprovox留置から会話可能となるまでの日数

本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認No15-Ifh-53).

どのような指導・リハビリが必要と感じましたか?

  1. 気道食道シャントの仕組みについて
  2. プロボックスのメンテナンスについて
  3. アドヒーシブの付け方・剥がし方について
  4. 人工鼻(HME)について
  5. 緊急時(水漏れ時)の対応について
  6. 発声練習
  7. その他アクセサリー(フリーハンズ・ラリボタン)について
  8. 自由記載

回答は4段階尺度とした
@とても必要 A必要 B不要 Cとても不要

発声に関する日常生活上の状態について

  1. 家族との会話
  2. 病気のことを知っている人との会話
  3. 病気のことを知らない人との会話
  4. 電話

回答は4段階尺度とした
@とても良好 A良好 B不良 Cとても不良

分析方法

  1. アンケートの回収率、病院でのリハビリの履歴、リハビリの必要性などそれぞれの項目について集計した
  2. Provox留置から発声可能となるまでの日数を病院でのリハビリの有無について比較した

分析方法

@
アンケートの回収率:51.0%
A
病院においてProvoxの発声リハビリを受けた経験がある患者の割合:57.7%
B
リハビリが必要と回答した患者の割合:91.8%
質問事項 とても必要または必要と答えた割合(%)
気道食道シャントの仕組みについて 92.7%
Provoxのメンテナンスについて 94.8%
アドヒーシブの付け方・剥がし方について 91.4%
人工鼻(HME)について 90.3%
緊急時(水漏れ時)の対応について 94.8%
発声練習 88.7%
その他アクセサリー(フリーハンズ・ラリボタン)について 89.4%
すべての項目でリハビリが必要と答えた割合が高かった

どのようなリハビリが必要か?(自由記載欄)

Provox装用患者に対応するシステム作りに関する要望

アドヒーシブに対するスキンケアに関する要望

発声リハビリに関する内容、指導者が少ないことに関する指摘

日常生活上の状態

家族との会話および病気のことを知っている人との会話を良好と回答した割合は83%と74%であった。
一方で病気のことを知らない人との会話および電話を良好と回答した割合は32%と37%であり、
うえ2つの項目に比べ低い割合となった。

考察

リハビリを受けた経験がある患者は57.7%と少ない。 一方で、リハビリを必要としている患者は91.8%と多く、どのようなリハビリが必要かと問うた項目では、すべての項目でリハビリが必要という回答を得た。

Provox使用者に対し、リハビリを提供できる環境が整っていないと考える。

自由記載の結果からも、言語聴覚士(以下、ST)に対する今後の課題も浮き彫りになり、Provoxのリハビリが行える人材を育成する必要があると考える。

また、会話の中でも「病気を知らない人との会話」や「電話」に支障を感じる方が多いことから、STの訓練は単なる会話が可能となることだけでなく、声質を向上させるような技術を生み出し、提供していかなければならないと考える。発声法に関する報告は認めるものの(Carolら1999、石川ら2011)、未だ少ないのが現状である。

結語

@
病院においてProvoxの発声リハビリを受けた経験がある患者率は57.7%と少なく、発声リハビリが必要と回答した患者率は91.8%と多かった。
A
日常生活上の「病気のことを知らない人との会話」、「電話」の項目で不良であった。
A
結果より、リハビリを実施できる施設やセラピストを増やすこと、リハビリの質を向上させていく必要があることが考えられた。