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局所麻酔下の新しいシャント挿入方法について

鳥取大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科  福原隆宏

 【はじめに】

 

 喉頭全摘術を行った患者の代替音声には、主に食道発声、シャント発声、電気喉頭などがあります。現在、ヨーロッパを中心にシャント発声が代替音声の主流となっています。気管食道シャントの形成には、喉頭摘出術時におこなう場合(一期的形成)と、喉頭摘出術後に創部が落ち着いた時点で行う場合(二期的形成)とがあります。

 気管食道シャントに挿入するチューブにはいくつか種類(販売会社の違いです)があります。そのうちの一つにATOS社が販売するProvoxがあります。Provoxのシャント手術器具は、前者の一期的形成を目的としたものです。しかし、実際では、術後に放射線治療が必要な方、皮弁による再建手術を受けた方、遊離空腸の移植を受けた方、喉頭摘出手術時にはまだ声を失った状態を想像出来ずシャントに踏み切れない方など、二期的な形成が必要となる患者さんが多くいます。また、二期的形成術は、他の代替音声を試した後で行うことのできる利点もあります。

 二期的形成の手法は様々報告されていますが、主に行われているのは癌研有明病院でも行われている、経口的に挿管チューブを挿入する方法です。この方法は全身麻酔でおこなわれます。日本の医療状況において手術枠は限られており、全身麻酔の手術は予定が入りにくいという問題があります。加えて、全身麻酔の前には種々の検査(術前検査)や、診察のための通院が必要となります。これらは、患者側のみならず、医療者側の負担にもなります。

 そこで我々は、局所麻酔下に経鼻ファイバーで食道側から穿刺することにより、簡便でかつ安全なProvox挿入法を考案し、実践しています。この方法は食道側より穿刺するため、安全に行うことが可能であり、手術操作もほとんど加わりません。さらに最適な場所へシャント形成できるよう、何度も穿刺が可能です。この度は、この手法を紹介したいと思います。

 

【手術方法】

 この手術は外来の診察室で出来ます。麻酔は局所麻酔です。具体的には、気管へ麻酔薬を噴霧する麻酔と、シャントを作る部分の粘膜に注射の麻酔をおこないます。鼻からカメラ(ファイバースコープ)を挿入するため、鼻にも麻酔をおこないます。咽頭反射が強い場合には、ゼリー状の麻酔薬を口から飲んで頂きます。鼻からファイバースコープを挿入し、食道内へ挿入します。気管孔から食道内のファイバースコープの光を確認できるところで、ファイバースコープの鉗子孔より穿刺針を挿入し、食道側から気管孔へ向けて穿刺します。よい部位に穿刺の針が出たところで、針を抜き、外筒をガイドにガイドワイヤーを挿入します。ガイドワイヤーが鼻から出たところで、先にプロボックスをくくりつけ気管側に引き出して挿入が完了します。かかる時間は15分程度です。出血はほとんどありません。

 

【この手法の利点】

 局所麻酔により外来ユニットでおこなうため、いつでも手術を予定できます。そして、手術までに術前検査などで何度も来院する必要がないため、いろいろな負担を軽減できます。

 手術をおこなった場合、手術直後より発声可能です。このため、挿入直後から発声リハビリを開始しています。食事も問題なくとって頂けます。

 この手法では、粘膜をメスで切開したりせずに、ガイドワイヤーに沿ってダイレーターというものを使用し穴を形成します。このため、シャントの穴が拡張する合併症を起こしにくくなっています。また、他の方法と違い、針で穿刺した部分が適切でない場合、再び穿刺をおこない、最適な位置へシャントを挿入することが可能です。

 

【この手法が難しい症例】

 気管と食道の解剖学的な位置によっては、針が粘膜面を滑ってしまい、刺さりにくい場合がありますが、今までのところ工夫によって解決できています。

 

この手法は鳥取大学の倫理審査委員会の承認を受けておこなっています。

 

お問い合わせ先

鳥取県米子市西町36-1

鳥取大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 外来:0859(38)6622