私の発声記

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私の発声記

                        M.K

○ 声が出ないと腹ペコに
 喉頭摘出手術をして声が出なくなり一番困ったこと、それは外出時いつも空腹だったということです。なぜかといいますと、レストラン等に入ったとき声が出ないので注文ができず、それがいやで店に入れませんでした。写真付きのメニューがあれば、「これ」と指させば済むのですが、そうしたものがあるかどうか店の外からはわかりません。そのため、外出時はいつも食事抜き、帰宅してようやく食事にありついていました。声が出なくて不便なこと困ったことは沢山ありましたが、私の場合、一番は外出時いつも腹ペコだったことでした。

○ 65歳で声を失う
 私が「下咽頭がん」と診断され、がん研病院で「喉頭食道全摘出」の手術を受けたのは、今から約5年前の2004年11月のことです。それまで病気らしい病気もせず、病院は見舞いに行くところ、自分が入院するなんて夢にも思っていなかったのに、放射線治療を含め生まれて初めての約2か月の入院生活でした。
 同年9月に65歳で第2の定年を迎えた私は、退職後70歳まではアルバイトで週3日働き、あと4日間ゆっくり遊ぼうとのんきに計画していました。しかし、発病で計画は白紙に。それどころか声を失ってしまい、「これからどうなるのだろう」、「友人や家族とずっと話ができないのだろうか」と病室で考える日が続きました。

○ 食道発声の習得は無理だった
 手術の後、放射線治療、抗がん剤治療が翌2005年8月まで続きました。ようやくそうした治療が終わって、食道発声の習得のために「銀鈴会」に通い始めたのは20005年9月になってからのこと。
 しかし、いつまでたってもまったく上達せず。医師から「空腸の人は食道発声の習得が難しい」と聞いていましたが、その通りでした。自慢にもなりませんが、子どもの時から無器用です。息をのみこんでゲップの要領で吐き出し発声する、そんなことはとても無理でした。
 「あめ」とか「おちゃ」という単語が出るまでで数か月。その後も全然進歩なし。その上、毎日8時間も9時間も練習したという人の体験談を聞いて、怠け者の私にできるはずがないと思い、またそんな時間はもっとほかのことに使いたいと思いました。

○ 「シャント式発声」に出会う
 そこで、病院での診察時に「私には食道発声は無理です」と医師にお話ししたところ、それではと「シャント式発声」を紹介され、がん研有明病院の福島先生の診察を受けました。2007年3月にヴォイスプロテーゼを入れるための手術、翌日にはなんとか声が出るように。そして、いまでは日常生活に困らない程度の発声ができるようになりました。
 この発声法の良いところ、それは長時間の練習・訓練が不要なこと。ただ、空腸のせいでしょうか、単純喉摘の人に比べるとクリアーな声、声量のある声が出ないのが悩み。でも、これは私だけではないようですが・・・。
 ところで、皆さんがシャント発声に出会うまでに情報入手のためいろいろ苦労されたことを聞くたびに、誠に申し訳ない気がします。私の場合、医師の勧めで、まず食道発声にトライし、その習得が無理だったので次にこの発声法を紹介されました。情報入手に皆さんのような苦労を全くしていません。お恥ずかしい次第です。

○ 声が出ると外出が楽しみに
 私が声を取り戻して一番良かったこと、それはなんと言ってもどんどん外出できるようになったことです。発声できないときは自分に自信がなく、通院等やむを得ない時以外は家に引きこもっていました。しかし、外に出ないと運動不足になり、新しい情報に接することもできません。欲求不満になるばかりでした。
 声を取り戻してからは、毎日のように外出しています。勤務する職場はなくなりましたが、散歩、買い物、旅行、観劇、美術展、料理教室、それに通院、たまに孫の保育園迎え等々、スケジュールはいっぱいです。br>  私の場合、外に出ることが元気のもとのようです。そして、たまに「十分わかります」というリアクションをいただくと嬉しくなり、もっとクリアーな発声をしようと発奮します。

○ よりよい発声のために
 よりよい発声のために私が実行しているのは、朝晩首を動かす体操をする、どこへでも電車かバスか徒歩で行くこと。それは、体調が第一だと思っているからです。体調が悪いと、うまく発声出来ません。
 より良い発声のためにはたくさんしゃべること。よくそう言われるのですが、職場人間だった私には近所に友人がいません。退職後、病気をしたため地域デビューのタイミングも失してしまいました。そこで、比較的近くに住む古い友人とできるだけ会う機会を作り、おしゃべりをする場を設けるようにしています。
 私には3歳の孫娘がいます。彼女は、毎日新しい言葉を覚え、日に日におしゃべりが上手になっています。この子に負けないよう、孫といつまでも会話ができるよう、それを目標により明瞭な発声を目指したい、そう考えています。

(2010年02月記)


 
 

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